ご挨拶
物語を書くということは、とても孤独で、根気のいる作業です。特に、十万文字という長編を描き切るためには、単なる思いつきだけではない執念や、緻密な設計、そして自分自身と向き合う強い精神力が必要になります。
しかし、今のWeb小説の世界を見渡したとき、その「描き切る力」は、正しく報われているでしょうか。ランキングの順位、星の数、流行のキーワード。それらは一つの目安ではありますが、物語の本質を決める唯一の物差しではないはずです。どれほど構成が優れ、美しい文章で綴られた作品であっても、時代の流行や、作者の知名度、あるいは「相互評価」といった繋がりの影に隠れてしまい、誰にも気づかれぬまま埋もれていく……。そんな物語を、私たちはいくつも見てきました。
「一万の称賛より、一つの正当な評価を。」
私たちがこの言葉を掲げたのは、甘いお世辞ではなく、あなたの作品が持つ「物語としての強度」を、真正面から受け止めたいと考えたからです。この賞は、個人が立ち上げた非公式な企画に過ぎません。出版の約束も、多額の賞金も、華やかなスポットライトも、用意することはできません。私たちがお渡しできるのは、あなたが魂を込めた物語に対して、選考委員会が持てる限りの誠実さをもって向き合うという、たった一つの「審判」の場だけです。
求めているのは、流行に合わせた作品ではありません。かといって、流行作品だからと切るわけでもありません。確かな筆力、揺るぎない物語の構造、そして何より「物語に全霊を捧げた」という作者の誇りが宿る作品です。
静かな選考の場ではありますが、あなたの物語が真の輝きを放つ瞬間に出会えることを、心から楽しみにしています。
令和八年一月
𠮷田樹賞選考委員会
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𠮷田樹賞選考委員会